FORMのこと①
雨の音
中央、段上朝礼台の上、少しうつむいて、片足立てひざで座るりょーちゃん。
白いシャツと髪が雨にしっとりと濡れている。
表情は……哀しげ。
立ち上がってゆっくり階段を下る。
どんなに偽った顔して笑いかけてきても
違うことを思ってるのは僕には分かってる
歌いながら。
りょーちゃんは舞台中央へ。
あの日からめくってるこの部屋のカレンダーも
二人の今と存在意義をきっと証明するため
上手から、黒シャツのはやしくんが歩いてくる。下手へ。
君が僕に強がるなら甘えてもいいんだよ?
このソファでいつ寝ちゃってもいいんだよ?
二人踊る。このとき、はやしくんも口ずさんでいる。
中央にりょーちゃん、少し離れて、下手側で、はやしくん。
二人で踊っているけど、一緒に踊っているというよりは、それぞれ踊っているように見える。距離が少し、離れているから。
隣でいるこの世界を僕が守ろう
踊りながら一瞬、向かい合わせになる二人。
君の嘘も寝顔も明日も
スッと距離を詰めて近づいて背中合わせになる。
形にできないからって
毎日不安で泣いたって
君から溢れる全ての感情抱きしめるよ
言葉はちっぽけだから
塞いで何も言わなくていい
この鼓動が全てだから今すぐに
距離を詰めたまま二人、背中合わせで踊る。
りょーちゃんは上手を、はやしくんは下手を向いて。
二人でひとつのように踊る。それは同じだけの熱量のように見える。けれど白と黒のシャツを着て、見ている方向も真逆で、まるで正反対の2人…。
愛を…
踊るのを止め、立ち止まる二人。
立ち去ろうとする、はやしくん。
その前に、振り返り、りょーちゃんの肩へそっと手を置く。
その表情は、暗くはない。決意に満ちたような、何かを託すような、
でもそんなに思いつめているようでもない、顔。
そっと手を置いて、そして、立ち去る。振り返ることはない。
少し遅れて、振り返るりょーちゃん。
とても哀しい瞳で、はやしくんの背中を見つめる。もう届かない、でも止められない、とでもいうように。
思いつめた顔とそうでない顔、振り返る人と振り返らない人。最後まで正反対で。
間奏
上手から、えだちゃんが歩いてくる。黒いシャツを着て、ビニール傘を差して。
りょーちゃんを見つめ、そっと近寄り、上手側の階段下に傘を開いたまま置く。
りょーちゃんは気づかない。
oh my baby~
そのまま、下手へ歩くえだちゃん。
立ち去ろうとするけれど、立ち去りがたく、足が止まる。
形にできないからって
毎日不安で泣いたって
君から溢れる全ての感情抱きしめるよ
言葉はちっぽけだから
塞いで何も言わなくていい
この鼓動が全てだから今すぐに
応えて
下手やや後方で、踊り始めるえだちゃん。
距離は、最初のはやしくんとりょーちゃんの距離よりも遠い。
見守るように、ここにいるよって力づけるように、踊る。
りょーちゃんは気づいていないように見えるけど、
振り向かなくても、見守られていることを分かっているのかもしれない。
そして、立ち去るえだちゃん。
僕が横に居れるのなら
世界を敵に回せるから
君から溢れる全ての感情抱きしめるよ
言葉はちっぽけだから
塞いで何も言わなくていい
この鼓動が全てだから今すぐに
えだちゃんが立ち去ると同時くらいに、
上手の上段に黒いシャツを着ためめが現れる。気づいたらそこにいる、という感じ。
踊り始める、めめ。段上は暗くて、表情は少し分かりづらい。
愛を
愛を
愛を
踊るのを止め、階段を下りるめめ。
えだちゃんが置いて行った傘を手に取り、
そっと、りょーちゃんに近づく。
最後の愛を、くらいで、傘をりょーちゃんに差しかける。りょーちゃんも踊るのを止め、うずくまるように座り込んでいた。
雨がかからなくなったことに気づいたのか、ふっと上を見上げるりょーちゃん。
そして、少し後ろを振り返って、傘を差しかけてくれた人がめめであると知る。
雨の音。そこで、暗転。