打算なんかで明日を選ぶな!

わざと齧っちゃったヤバいリンゴのお話

厳かな春の踊り 〜2016歌舞伎の残り香のようなもの

「春の踊りは!よぉーいやさぁーーーー!」の後、薄い幕の裏でドドドドドッと足音が聞こえてスタンバイしてるのが分かる。あの白い幕が上がる(落ちるんだっけ?どっち?)瞬間が、きっと一番、どきどきしてる。

 

舞台中央やや下手寄り。土台になっている、ややうつむき加減のはやしくんの横顔。ここで、デコ出しかそうじゃないかをチェックして、でも横顔じゃ確信が持てないから、正面向いた瞬間に、ハッ!!!!っていつも息を呑んでいた。

手に反動をつけて佐久間くんをポーンと飛ばした後、私が見た中で一度だけ、手を痛そうにパッと払っていたことがあったっけ。

 

やや下手寄りの櫓の手前で踊る。ズッズッパッ!って左手を差し出して、滝様のフライングへ。「月が照らす優しき眼差し」のところで、”その時”を待って、軽く左足でリズムを取りながらスタンバっているはやしくんの、静なるエモーショナル。

そして、その時。「涙、永久の夜空に消えて」でバッとゼロ番へ躍り出て、ガッシガシに踊るのだ。ここがこの春のひとつの象徴的なシーンだった。ゼロ番で、中心で踊る、はやしくん。林翔太個人、という最初のアイコン。

とにかくクイックなターンが目を引く。普段、曲線的な動きが印象的なはやしんが、直線的で矢のような鋭さを持った動きをする、春だけの特別感。瞬きもできないような勢いそのままに「愛しさは今宵も」で下手へ風のようにはけていく。

 

はやしくんがはけている間は、右手をくるくる回して観客を煽るように踊るジェシーを見たり、ひーくんのウィンクにやられたり、長妻のオールバック似合わないなぁって思ったり、げんげんのダンス好きだなーと思ったりするところ。

 

ピンクにお着替えして、はやしくんは上手に登場。このピンク、はやしくんによく似合ってた。はやしくんはピンクが本当によく似合う。この春に見つけて、何度もかみ締めたことだった。

阿部ちゃんと並んで、「Farway〜いにしえ〜」。阿部ちゃんのきりっとした濃いめのお顔と、はやしくんの淡々とした表情を並べて視界に入れて、阿部ちゃん今日もりりしいなぁ。はやしくんはいつもどおりかわいいなーと思うところ。盆が回って、姿が見えなくなるところで、下手にはける。

 

ここからわたしは、しばし無所のシーン。下手のげんげんか、上手の基くん。「believe in my soul」で上手のオタクを根こそぎ狩っていた基くん!!

 

そしてはやしくんは赤布を持って、上手から登場。

2014年のDVDどおり、片手が後ろでも、ブレないはやしくんのダンス。はやしくんが毎回、とても厳かな表情で踊っていたので、赤布がとても神聖なものに感じられた。それって素敵な物語性だと思う。何年も、何百年も続けてきた神聖な儀式のように、赤布を空へと放つはやしくん。ここは本当にぶれない、毎回折り目正しく同じ動き。

放った後から、歌詞を口ずさむのがとても好きだった。役目を終え、封印が解かれて、巫女が発声することを許されたような。

 

いにしえはずっとバッキバキに踊っているんだけど、冒頭は直線的な勢いと力強さ、赤布のあとは、クイックネスはそのままに、曲線的な動きも取り戻していた。記憶を追いかけて、の指折り、そして、なんといっても視線。「銀河の果てまで」で右手上から、左手下までウエーブを送りながら視線も送るところ。「はるか遠くまで」で頭上に手を伸ばしながら、視線までも伸びやかに天を仰ぐところ。

 

厳かな祈りを捧げるように見えるはやしくんの姿をひたすら記憶に刻んだ2016年の春。これはその記憶の断片のような、残り香のような記録。